洪水に沈む集落を洪水ごと見せる観光地にした
Tân Hóa
2011年にオクサリス社が洞窟ツアーの調査と試験運行の許可を得て観光が始まり、2014年からクアンビン省が事業者と組んで段階的な戦略をつくった。2022年末に国の観光当局が応募を勧め、2023年10月19日にUNWTOの世界最良の観光村に選ばれた。
何をしたか
クアンビン省ミンホア県タンホア社(人口3,075人)は、旧暦6〜9月に毎年冠水し、水が溜まりやすい谷あいの土地である。2010年には記録的な洪水に見舞われた。2011年、オクサリス社(Công ty Oxalis)がこの地のトゥーラン(Tú Làn)洞窟群で探検ツアーの調査と試験運行の許可を初めて受け、そこから観光が始まった。住民は食事の提供や宿泊の受け入れを担い、洪水時に水位とともに浮き上がる「浮く家(nhà phao)」に観光客を泊める形もできた。2023年10月19日、国連世界観光機関(UNWTO)はウズベキスタンのサマルカンドで、タンホアを「世界最良の観光村」に選んだ。ベトナムからの選出はこの1村のみだった。
誰が始めたか
住民組織ではなく、外部の民間企業が入口をつくった。 2011年、オクサリス社(Công ty Du lịch Chua Me Đất / Oxalis)がトゥーラン洞窟群での探検ツアーの調査と試験運行の許可を初めて受けた。同社はその後、住民宅での夕食、ホームステイ、宿泊施設トゥーラン・ロッジ、タンホアのリム(鉄木)の森を走るATVツアーなどを組み立てている。
人民日報(Nhân Dân)2023年10月19日の記事によれば、この展開はオクサリス社とタンホア社(村)の行政、ミンホア県、クアンビン省観光局が共同で組み立てた段階的な戦略とされ、その中身は、住民を観光活動への参加からはじめ、段階を追って住民自身が提供するサービスの主体になっていくという道筋だったと説明されている。住民は浮く家(nhà phao)でホームステイを開く手ほどきを受けた、とも書かれている。
つまり最初から「外部企業が始めて、所有を住民に移していく」という順序が置かれていた。 UNWTO の賞のカップを受け取ったのはタンホア社人民委員会主席のチュオン・タイン・ズアン(Trương Thanh Duẫn)である。
いくらかかったか
確認できなかった。 参照した4本の出典のどこにも、投資額・事業費・補助金額といった金額の記載がない。unknown_fields に funding_scale を挙げている。
人民日報の記事は、国内外の報道を通じた宣伝に「体系的に投資された」と書き、トゥーランやタンホアを舞台にした大作映画(『Kong: Skull Island』など)の撮影に触れているが、いずれも金額は示されていない。 住民の収入や雇用数についても、この4本には数字がない。
真似するなら最低何が必要か
この事例で真似できるのは、洞窟でも映画でもなく、弱点の扱い方と、所有を移す順序である。
第一に、毎年沈むという弱点を、隠さず売り物の中心に据えたこと。タンホアは旧暦6〜9月に冠水する土地で、2010年には記録的な洪水に遭っている。ここで採られたのは治水でも移転でもなく、「気象に適応する観光村(làng du lịch thích ứng với thời tiết)」という位置づけだった。克服する対象だったものを、そのまま来てもらう理由に変えている。
第二に、住民がすでに持っていた道具を商品にしたこと。浮く家は観光のために作られたものではなく、洪水を生き延びるための住民の既存の備えである。それをホームステイとして使えるように手ほどきした。新しく建てたのではなく、あるものの用途を増やしている。 P3の規模で移せるのは、ここだと思われる。
第三に、所有を移す順序が最初から設計に入っていたこと。外部企業が2011年に入り、住民は当初は参加者として、のちにサービスの主体として位置づけられている。外部の事業者が入ることと、住民が主導権を持つことを、対立ではなく前後関係として扱っている。
第四に、行政の3つの層が同じ設計に乗ったこと。村(社)・県・省の観光局が同じ戦略を共有している。単一の自治体だけでは、許認可と宣伝の両方は動かない。
なお、トゥーラン洞窟群という資源そのものは再現できない。移せるのは順序と姿勢であって、資源ではない。 また、この事例の担い手は民間企業であり、住民組織が立ち上げたものではない。
今どうなっているか
status_current: 継続中。開始(2011年)から13年後にあたる2024年9月23日の Dân Việt の記事が、現在の様子を伝えている。同記事によれば、大雨のたびに谷に水が集まり村全体が水に囲まれること、各家庭が舟を持ち、洪水の日には浮く家に移って普段どおり生活していること、そして近年は水に囲まれることが日常になるにつれて観光を含む生活全体がそれに合わせて動くようになったことが書かれている。同記事は、まさにその増水の日に「ベトナム初の気象適応型観光」を体験しに来る観光客が多いとしている。
ただし出典の性格には注意が要る。 4本のうち3本(Thanh Niên・Nhân Dân・Báo Chính phủ)は2023年10月19日という同じ日の、UNWTO 表彰を受けた報道である。うち2本は党機関紙と政府系媒体であり、STATE §4 が言う成功報道バイアスがかかりやすい位置にある。開始から3年以上あとの独立した継続報道と言えるのは、実質的に Dân Việt の1本である。
課題を述べた発言も記録されている。クアンビン省人民委員会副主席のホー・アン・フォン(Hồ An Phong)は2023年10月19日の記者会見で、観光を伸ばすことと、ベトナムの農村らしさを保つことの両方について、地方・企業・住民にはこれからやるべきことがまだ多くあると述べている。縮小や撤退を伝える報道は、確認した範囲では見当たらなかった。
出典
- Tân Hóa - 'rốn lũ' Quảng Bình có gì mà thành làng du lịch tốt nhất thế giới? — Thanh Niên(2023-10-19)
- Tân Hóa (Quảng Bình) được vinh danh là Làng du lịch tốt nhất thế giới — Nhân Dân(2023-10-19)
- Tân Hóa – Một trong những làng du lịch tốt nhất thế giới — Báo Chính phủ(2023-10-19)
- Du khách chèo sup, ở nhà phao, trải nghiệm vùng "rốn lũ" Quảng Bình — Dân Việt(2024-09-23)
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