建築士ら4人が10万円ずつ出資してつくった会社が、補助金を使わず空き店舗を借金で改修し、稼いだ分をまちに再投資した
北九州家守舎
2015年5月時点で嶋田氏は小倉で17件が実現し380人以上の雇用を生んだと述べ、同年3月には学術誌が同社を遊休不動産活用の社会企業の事例として分析した。
何をしたか
福岡県北九州市小倉の魚町で、建築士の嶋田洋平氏ら4人が2012年に「北九州家守舎」を設立した。行政の補助金は使わず、自分たちで借金をして空き店舗・空きビルを改修する。 家賃を周辺相場より下げ、入居者を先に集めてから工事する手法で、若手のクリエイターや事業者を呼び込んだ。嶋田氏によれば、「まちづくりで稼いだら、まちに再投資する」という方針を最初から決めているという。2015年時点で嶋田氏は、小倉で17件のプロジェクトが実現し、380人以上の新規雇用者を生んだと述べている。
誰が始めたか
日本仕事百貨(2013年8月13日)によれば、北九州家守舎は前年に設立された会社で、中心メンバーは4人。 同記事では代表取締役が嶋田洋平氏(らいおん建築事務所代表)とされ、ほかに徳田光弘氏(九州工業大学准教授)、片岡寛之氏(北九州市立大学准教授)、遠矢弘毅氏(カフェ「cafe causa」経営)で構成される。なおcolocal(2015年5月14日)は、嶋田氏と遠矢氏の共同代表と書いており、代表の立て方が出典間で違う。 徳田氏の下の名前は、greenz.jp(2014年11月4日)とcolocal(2015年5月14日)がいずれも同じ記事の中で「徳田光広」と「徳田光弘」の両方を使っており、媒体間ではなく記事内で表記が割れている。
出発点は、北九州市が打ち出した「小倉家守構想」である。 日本仕事百貨に嶋田氏は、市は都市型の産業を集積させて駅周辺に新しい産業を生み出そうと考えており、東京の神田などで実績があった建築・都市・地域再生プロデューサーの清水義次氏と一緒に小倉家守構想を打ち出したのが2010年夏ごろで、翌年4月から5年間の政策として動いている、と語っている。greenz.jpは、嶋田氏について、「リノベーションスクール@北九州」(同誌によれば2011年8月から半年に一度)の第1回に講師として参加し、そこで清水氏がプロデュースし市が打ち出したこの構想に出会った、と地の文で書いている。
家守舎ができた理由は、スクールで生まれたアイデアをそのままにしないためだった。 日本仕事百貨によれば、取締役の徳田光弘氏は「第1回が終わった後、実案件化ができなかった」と語り、その理由をオーナーを支えたりリスクを分担したりする組織が無かったことに求め、そこに気づいて家守舎を作ったと説明している。
出資は少額から始まった。 greenz.jpによれば、北九州家守舎は、パートナー1人あたり10万円ずつ(嶋田氏のみ20万円)を出資してつくった会社だという(嶋田氏へのインタビューに基づく)。
いくらかかったか
会社全体の収支は、今回の出典のどれにも書かれていない。 分かるのは設立時の出資額と、最初の事業化案件にかかった資金の内訳、そして資金調達の方針である。
設立時の出資は、greenz.jpによれば1人10万円ずつ(嶋田氏のみ20万円)。 最初に事業化したプロジェクト「MIKAGE1881」(元日本料理店を改装したコワーキングスペース)には400万円ほどが必要になった。greenz.jpによれば、その資金は、パートナーが1人あたりさらに50万円を追加で出し合い、なお不足する分を不動産オーナーや小倉エリアの事業家からも募るという形で、この案件だけに集中して投じられたという(嶋田氏の説明として)。
行政の補助金は使わない方針である。 colocal(2015年5月14日)のインタビューで嶋田氏は、行政の補助金は使わず、補助金を使うくらいなら借金をすると述べている。理由として、補助金への依存が事業者から主体性を奪ってしまい、結果として事業が長く続かなくなる場面を数多く見てきたことを挙げている。greenz.jpでも同様に、パートナーにはそれぞれ本業があり家守舎は副業で、まちづくりで稼いだ分はまちに再投資すると決めていると説明されている。
資金調達は容易ではなかったとも述べている。 greenz.jpによれば嶋田氏は、まちづくりにはビジネスモデルとしての前例がないため銀行が融資してくれないとし、実績や担保となる不動産を持たないので資金調達には苦労するが、自らリスクを取って事業化することに意義を感じている、と語っている。
真似するなら最低何が必要か
出典から取り出せるのは6つである。
1. 専門の異なる複数人で座組を作ること。 建築士(嶋田氏)、大学准教授2人(徳田氏・片岡氏)、カフェ経営者(遠矢氏)という、守備範囲の異なる4人でパートナーを組んだ(greenz.jp)
2. スクールやアイデアで終わらせず、実現をフォローする組織を別に作ること。 リノベーションスクールの第1回で提案が実案件にならなかった経験から、オーナー支援とリスク分担を担う会社として家守舎が作られた(日本仕事百貨、徳田氏の説明)
3. 補助金に頼らず、自分たちで資金を工面する方針を最初に決めておくこと。 補助金への依存は事業者の主体性を弱めるという考えのもと、借金と少額出資で事業化している(colocal・greenz)
4. 家賃を下げ、入居者を先に集めてから工事すること。 商店街のテナント賃料が高く若手が入居しづらかったため、1フロアを2〜20坪の区画に区切り、入居希望者が支払える賃料を設定したうえで、先に入居者を集めてから工事に入る手法をとった(greenz.jp、メルカート三番街の例)
5. 銀行が貸してくれないことを前提に、自らリスクを取る覚悟をすること。 実績や不動産の担保がないため、通常の融資は受けにくいと嶋田氏は述べている(greenz.jp)
6. 大学・行政と一体感を持ちながらも、民間として自立して動くこと。 徳田氏は、行政主導のまちづくり会社が全国で行き詰まる一方、民間だけでも限界があるとし、家守舎は大学・行政とのつながりを持ちながら民間として動く点が強みだと述べている(日本仕事百貨)
確認できないのは、会社全体の年間収支、案件ごとの投資回収期間、そして2015年より後の財務状況である。
今どうなっているか
2015年5月時点で確認できた最も新しい記録は、colocalに掲載された嶋田氏へのインタビューである。 嶋田氏によれば、小倉ではコワーキングスペース「MIKAGE1881」やシェアハウス「COCLASS」を含めて17件のプロジェクトが実現済みで、新規の雇用は合計で380人以上の規模になったという(colocal、2015年5月14日)。
同じ2015年3月には、学術の側からも取り上げられている。 日本ベンチャー学会誌(2015年3月15日)は、滋賀県長浜市の株式会社黒壁と並べて、北九州家守舎を「遊休不動産」という物質的存在を介した地域再生・ソーシャルイノベーションの事例として分析した(抄録による。本文は今回の調査では確認できていない)。
否定的な報道は、今回の調査では見つからなかった。 SUUMOジャーナル(2014年9月30日)は、魚町銀天街周辺で2012年末から1年半の間に3件の火災があったこと、2014年2月の火災で銀天街沿いの11棟が焼けたことを伝えているが、これは老朽化した木造密集地域という周辺環境の課題であり、家守舎の事業そのものへの批判ではない。同紙は、火は防ぎきれず人の使っていない建物は特に危ないとしたうえで、使われていない建物に一つ一つ手を入れて「活きた建物」にしていくことが重要だとする談話を伝えているが、誰の発言かは同記事に明記されていない。
2015年より後、掲載日を特定できる独立した報道・論文は、今回の調査では見つからなかった。 そのため、2015年より後にこの会社がどうなったかは確認できていない。
出典
- リノベ最前線に飛び込め! / 株式会社北九州家守舎 / 日本仕事百貨 — 日本仕事百貨(2013-08-13)
- 日本最初のアーケード商店街が挑戦!「リノベーションまちづくり」後編 — SUUMOジャーナル(リクルート)(2014-09-30)
- リノベーションで、自立するまちをつくる。「リノベーションスクール」を企画・運営する嶋田洋平さんに聞く、まち×リノベーションの可能性 — greenz.jp(NPOグリーンズ)(2014-11-04)
- 嶋田洋平さん | 「colocal コロカル」ローカルを学ぶ・暮らす・旅する — colocal(マガジンハウス)(2015-05-14)
- 遊休不動産を利用した「利害の結び直し」として読み解かれるソーシャル・イノベーション:滋賀県長浜市株式会社黒壁と福岡県北九州市株式会社北九州家守舎の事例 — 日本ベンチャー学会誌(2015-03-15)
この記述は間違っていますか。受け取ってから2週間以内に、直すか直さないかを返します。