閉鎖した空港を更地のまま市民に開き続けている
Tempelhofer Feld
2010年5月に公園として開かれ、2014年5月25日の住民投票で約65%が建設に反対して計画は否決された。その後も建設を求める動きは続き、2018年と2019年に縁辺部への建設案が出て、2023年12月には州政府が市民工房と設計競技を進める方針を示した。2025年8月には市長が2026年にも住民に問い直したいと述べている。
何をしたか
ベルリン中心部のテンペルホーフ空港は2008年に閉鎖され、385ヘクタールの跡地は2010年5月から公園として市民に開かれた。ベルリン州政府は縁辺部に住宅を建てる計画を進めたが、市民発意の「100 Prozent Tempelhofer Feld(100パーセント・テンペルホーフ野)」が反対運動を起こし、2014年5月25日の住民投票で計画は否決された。可決された市民発意の法律により、跡地は建物を建てずに自由空間として保たれることになった。建てなかったこと自体が結果である取り組みで、その後も建設を求める動きが繰り返し起き、そのたびに争点になり続けている。
誰が始めたか
先に計画を出したのは州政府である。 taz 2014年5月25日によれば、当時の建設担当上院議員 Michael Müller(SPD)のマスタープランは、縁辺部に4,700戸の住宅と多数の事業用施設を建てる「Randbebauung(縁辺部の建設)」であり、当時の市長 Klaus Wowereit が力を入れていた中央・州立図書館(ZLB)をこの場所に置く計画も含まれていた。taz 2024年5月24日によれば、2017年に国際園芸博覧会、2020年に国際建築展を跡地で開く構想も進んでいた。
それに対して市民発意が別の法律案を出した。 同記事によれば、住民投票が行なわれたのは市民発意「100 Prozent Tempelhofer Feld」の働きによるものであり、投票は州政府の法律案(縁辺部に建てる)と発意側の法律案(跡地を空けたままにする)を競わせる形で行なわれた。taz 2014年5月25日によれば、投票は欧州議会選挙と同日に実施された。
結果は数字で確認できる。 同記事は州選挙管理責任者 Petra Michaelis-Merzbach の発言として、開票が約8割の時点で発意側が65%を超え、有権者約249万人の4分の1という定足数も、約30%の賛成で満たされたと伝えている。 法律案の成立には最低622,785票が必要だった。taz 2024年5月24日は、110万人を超える投票者のうち約75万人が発意側の保護案を支持し、約65%の多数だったと書いている。
発意側の当事者は2人が出典に出てくる。 taz 2014年5月25日によれば、発意の理事 Michael Schneidewind は開票後、この結果はベルリンの都市開発が今後は違う形で機能しうるという強い合図を意味すると述べた。taz 2024年5月24日では広報担当の Anita Möller が、この場所の特別さはすべての社会層が集まれること、そしてこれまで常に平和に行なわれてきたことにあるとし、都市の気候にとっても大きな意味を持つと述べている。
否決されたあと、建設を求める側が繰り返し戻ってきている。 出典の並びはそのまま再挑戦の記録である。
- 2018年11月 — Der Tagesspiegel(11月17日)によれば、SPD の州党大会が、マルツァーン=ヘラースドルフ/テンペルホーフ=シェーネベルク/フリードリヒスハイン=クロイツベルクの各支部の共同提案を、議論のうえ明確な多数で可決し、「社会的に受け入れられる縁辺部の建設」を支持した。 ただし同紙は、「住民立法への敬意から」この会期中は縁辺部の建設について決定しないという立場も併せて伝えている
- 2019年12月 — Der Tagesspiegel(12月29日)によれば、FDP が家賃の上昇と住宅不足を背景に縁辺部の建設についての新たな住民投票を計画し、そのために必要な公式の費用見積りの申請を、幹事長 Sebastian Czaja が12月初めに内務担当上院議員 Andreas Geisel(SPD)に送った。同紙の見出しはこの計画を12,000戸としている
- 2023年12月 — taz(12月5日)によれば、建設担当上院議員 Christian Gaebler(SPD)が跡地の将来の利用について提案を上院に提出し、住民投票からおよそ10年を経た「高まった利用の要求」を理由に「再評価」を行なうとした
- 2025年8月 — nd(8月4日)によれば、市長 Kai Wegner(CDU)が B.Z. 紙に対し、2026年にはベルリン市民にこの場所をどう望むか問えるようにしたいと述べた
いくらかかったか
金額は確認できなかった。この事業では、費用を使ったのではなく計画が取り下げられている。 4本の taz・Tagesspiegel・nd のいずれにも、跡地の維持管理費、市民発意の運動費用、計画の取り下げによる損失は書かれていない。書けるのは、お金の話が出てくる場所がどこかである。
- 取り下げられた側に金額の記述はない。 taz 2014年5月25日は、Wowereit が州政府の法律案が発意側に敗れた場合はこの場所での ZLB を白紙に戻すと予告していたとし、投票結果によって図書館の計画も実現しない見通しになったと書いている。ただしそれまでに投じられた費用の額は書かれていない
- 費用の見積りが出てくるのは、次の住民投票を起こす側である。 Der Tagesspiegel 2019年12月29日によれば、FDP が申請したのは新たな住民投票のための公式の費用見積りである
- その後の手続きにも公費が使われているが、額は書かれていない。 nd 2025年8月4日によれば、上院は6月末に本来は拘束力のない建築アイデア競技の結果を公表し、抽選で選ばれた275人のベルリン市民が跡地の将来と競技の案を議論する「対話工房(Dialogwerkstatt)」を設けた。taz 2024年5月24日によれば、この過程ではまず無作為に選ばれた20,000人に招待が送られ、その回答から年齢・性別・学歴・移民の背景・居住地に配慮して最大275人が抽選された
- 住宅不足が費用の代わりに議論の軸になっている。 nd 2025年8月4日で Wegner は、市内の住宅が少なすぎるのでこの用地を使わなければならないと述べている。同じ記事で野党側の反論も併記されている(下記)
funding_scale は unknown_fields のままとした。385ヘクタールを維持する費用も、投票運動の費用も出典に無いためである。
真似するなら最低何が必要か
1. 市民の側が法律案を出せる制度。 ここで起きたのは反対運動ではなく立法である。 発意「100 Prozent Tempelhofer Feld」が法律案を出し、それが州政府の法律案と競って可決された。taz 2023年12月5日はその法律を「テンペルホーフ野の保全に関する法律」と呼び、nd 2025年8月4日は「テンペルホーフ野法」と呼んでいる。建設を行なうにはこの法律の変更が必要になる
2. 定足数を超える票数。 必要だったのは最低622,785票で、有権者は約249万人。賛成の割合だけでなく、有権者総数に対する割合(4分の1)が条件になっている
3. 投票日を大きな選挙に合わせること。 2014年5月25日の住民投票は欧州議会選挙と同日に行なわれた
4. 否決の後も続く体制。 2018年(SPD 党大会)、2019年(FDP)、2023年(上院の提案)、2025年(市長の発言)と、建設を求める動きは繰り返し起きている。一度勝てば終わる形になっていない
5. 「何を議論するか」の設定を見張ること。 taz 2023年12月5日によれば、Gaebler は提案が「慎重な縁辺部の建設」の「するか否か」ではなく「どのように」を扱うものだと強調し、市民工房の「参加型の過程」に参加できるのは建設に開かれた人だけだとした(それ以外は意味をなさないという同氏の見方である)。同氏は「慎重かどうかは解釈の問題だ」とも述べている
6. 人が集まる理由を跡地に置いておくこと。 taz 2024年5月24日が挙げているのは、凧を揚げること、共同菜園で友人と過ごすこと、広がりの上に沈む陽を眺めることである
確認できないものは、385ヘクタールの維持管理費と担い手、市民発意の運動費用、取り下げられた計画に投じられていた費用、2026年に市長が述べた意見聴取が実際に行なわれるか、法律の変更に必要な多数が形成されるかである。
今どうなっているか
2026年8月時点で確認できた最も新しい記録は、2025年8月4日の nd の記事である。
建設を求める側の現状。 同記事によれば、市長 Kai Wegner(CDU)は B.Z. 紙に対し、2026年にはベルリン市民にこの場所をどう望むか問えるようにしたいとし、その後は計画に非常に速く進まなければならないと述べた。 同氏は、市内の住宅が少なすぎるのでこの用地を使わなければならないとし、意見は変わりうるので改めて市民に問う必要があるとも述べている。 黒赤(CDU・SPD)の連立は旧空港用地の建設を支持する側にある。
アイデア競技の結果は、求める側の思う向きには揃わなかった。 同記事によれば、上院が6月末に公表した建築アイデア競技の6つの入賞案のうち4案は建設を想定していない。 これらの案の作者は声明で、自分たちの案が縁辺部の建設を押し通す口実に使われてはならないと述べた。 建設を想定した2案は、いずれも敷地の南端と西端での建設を示している。
対話工房の参加者の側から批判が出ている。 同記事によれば、最後の集まりの後、Architects 4 THF が起草した声明が出され、出席者のおよそ半数が署名した。 その内容は、対話過程への自分たちの関与が、市民参加を装うために悪用されることを危惧するというものである。
野党側の見方も同じ記事に載っている。 緑の党の州議会会派で都市開発を担当する Julian Schwarze は nd に対し、上院が住宅危機の解決のために繰り返しこの跡地を持ち出すことは「注意をそらす動き」だと述べ、シューマッハー街区、モルケンマルクト、上院が自ら引き取った建設計画など他の場所が進んでいないことを覆い隠そうとしていると述べた。 同氏は、対話工房が「小さなベルリン」と称揚されたのに、その多数が建設に反対の立場を示すとその意味が小さく扱われたとし、結果が合うまで拘束力のない投票を繰り返そうとしているという印象が生じると述べている。 同氏はまた、上院は拘束力のある意見聴取を始められず、SPD が前年に持ち出した「上からの住民投票」には憲法の変更が必要で、上院にその多数はないとも述べている。
2023年時点の手続きの設計は、2025年の実際と数が違う。 taz 2023年12月5日は、4月から最大500人の代表的に選ばれた市民が市民工房で跡地の利用を議論し、そこで2025年までに練られた案をもとにアイデア競技を行なうという上院の提案を伝えている。実際に対話工房に加わったとされるのは275人である(nd 2025年8月4日、taz 2024年5月24日)。
2023年にはもう1つ別の道が開かれている。 taz 2023年12月5日によれば、上院はその2週間前に跡地での難民の収容についての例外規定を進めており、左派党はそこに建設への入口を見ていると同記事は書いている。
発意側の反論も記録しておく。 taz 2024年5月24日で Anita Möller は、上院の計画は口実であり、不誠実で、民主主義を危うくするものだと述べている。 緑の党の会派代表 Werner Graf は2023年12月、跡地を空けたままにする住民投票が存在するという立場を述べた(taz 2023年12月5日)。建設を求める側の言葉と求めない側の言葉は、いずれも同じ出典の中に併記されている。
出典の性格について明記しておく。
- Der Tagesspiegel の2本は有料記事であり、無料で読める導入部分しか読んでいない。 どちらも本文が購読者向けに閉じられている(showPaywall の表示がある)。ここに書いた2018年と2019年の内容は、その導入部分に書かれている範囲に限られる
- taz 3本と nd 1本は本文が取得できている。 ただし taz・Tagesspiegel・nd-aktuell はいずれも Claude による取得を robots.txt で拒否しているドメインで、本文は以前に取得したものを使っている(再取得はしていない)
- この事業は政治的な争点そのものであり、出典はいずれも争点の一方に立つ発言を引用している。 Terroir の地の文はどちらの側にも立たず、誰がどこで何を述べたかを帰属つきで並べた
出典
- Volksentscheid Tempelhofer Feld: Senat vom Feld gejagt — taz(2014-05-25)
- Trotz Volksentscheid: Bauen auf dem Tempelhofer Feld? — Der Tagesspiegel(2018-11-17)
- FDP plant 12.000 Wohnungen: Initiative will neuen Volksentscheid zum Tempelhofer Feld — Der Tagesspiegel(2019-12-29)
- Bebauung des Tempelhofer Feldes: Senat drängt auf Randbebauung — taz(2023-12-05)
- 10 Jahre Volksentscheid Tempelhofer Feld: Simulierte Beteiligung — taz(2024-05-24)
- Volksentscheid – Tempelhofer Feld: Abstimmen, bis das Ergebnis stimmt — nd(2025-08-04)
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