気候対策の事業を、区ごとに住民の陪審が選ぶ仕組みを作った
Wiener Klimateam
2023年の論文は抄録で、ウィーンの参加型予算の現行の形態は、過程の正統性を高める一方で実施の実効性と弱い立場の人々の力づけには効きにくいかもしれないと論じている。2026年7月に4巡目が終わった。
何をしたか
ウィーン市が、気候対策の事業を区ごとに住民が選ぶ仕組み。2022年に Margareten・Ottakring・Simmering の3区で試行が始まり、市は試行のために年650万ユーロを充てると同年に報じられた。住民から案を集め、専門家との作業会で実施できる形に練り直し、抽選で選ばれた住民の陪審が実施する案を決める。試行では集まった案から19件が選ばれ、内訳は Margareten 5件・Ottakring 3件・Simmering 11件と報じられた。2023年には Mariahilf・Währing・Floridsdorf の3区が加わると報じられた。2026年7月には4巡目が終わり、Josefstadt と Penzing で15件が選ばれた。Josefstadt では222件の案から8件が選ばれ、実施には区の予算から約50万ユーロが充てられると報じられている。
誰が始めたか
市の側から始まっている。 MeinBezirk(2022年1月16日)は、気候担当市政委員のユルゲン・チェルノホルツキー氏(SPÖ)がこの参加の仕組みを立ち上げたと伝え、試行のための費用はすでにウィーン市議会の気候委員会(Klima-Ausschuss)で議決されていたと書いている。案の募集より先に予算が決まっている順序である。
実務はエネルギー計画を担当する市の部局(MA 20)が持つ。 陪審員の選び方は同部局のカタリーナ・レツク氏が説明し(MeinBezirk 2022年11月15日)、実施予算の配分の規則は同部局長のヴェンケ・ヘルチュ氏が説明している(同2022年12月16日)。
前史として、区のレベルの参加型予算がある。 Urban Planning に載った論文(2023年3月16日、ウィーン大学のビョンソン・アン氏ら4名)の抄録は、参加型予算という政策の考えが2017年に区のレベルでウィーンに入り(Partizipatives BürgerInnen-Budget)、そこから気候変動への適応を扱う市レベルの事業(Wiener Klimateam)へ発展したと書いている。
区は受け入れ側として関わる。 試行の3区では、Margareten のシルヴィア・ヤンコヴィッチ氏、Simmering のトーマス・シュタインハルト氏、Ottakring のフランツ・プロコップ氏(いずれもSPÖ)が区の側の担い手として登場する(MeinBezirk 2022年6月28日)。
いくらかかったか
試行の原資は年650万ユーロである。 MeinBezirk(2022年1月16日)は、市が試行段階のために年650万ユーロを用意すると書き、この財源はウィーン市議会の気候委員会で議決済みだと伝えている。
配分の規則は人口割である。 MA 20 部局長のヴェンケ・ヘルチュ氏は、実施のために区民1人あたり20ユーロが使えるという趣旨を述べている(MeinBezirk 2022年12月16日)。
区ごとの額も報じられている。 2023年に加わる Währing について、区長のシルヴィア・ノセック氏(緑の党)は、これが区で気候の事業を実施するための追加の100万ユーロを意味すると述べている(MeinBezirk 2023年1月10日)。Ottakring で選ばれた3件については、区長のフランツ・プロコップ氏が中央予算(Zentralbudget)から200万ユーロ超で賄われると述べている(同2023年3月2日)。4巡目では、Josefstadt の8件に約50万ユーロ、Penzing の7件に約200万ユーロが区の予算(Bezirksbudget)から充てられると報じられている(同2026年7月2日)。
財源の呼び方は記事によって違う。 同じ仕組みの実施費を、2023年3月2日の記事は「中央予算」、2026年7月2日の記事は「区の予算」と書いている。どちらが正しいのか、巡ごとに変わったのかは、参照した8本のどこにも書かれていない。
真似するなら最低何が必要か
第一に、募集を始める前に予算を議決しておくこと。MeinBezirk(2022年1月16日)によれば、試行の年650万ユーロは事業の発表時点ですでに市議会の気候委員会で議決されていた。案を集めてから財源を探す順序になっていない。
第二に、配分の規則を人口で自動的に決めること。MA 20 のヘルチュ部局長は、実施に使えるのは区民1人あたり20ユーロだと述べている(同2022年12月16日)。区ごとの取り分を交渉で決めない。
第三に、陪審を二段階の抽選で作ること。MA 20 のレツク氏によれば、まず区の住民を無作為に選んで案内を送り、参加登録した人の中から改めて抽選して陪審員を決める(同2022年11月15日)。Ottakring の陪審は20人だった(同)。
第四に、集めた案を、決を採る前に二度こしにかけること。同記事によれば、試行で集まった1,100件のうち行政の専門家の審査を通ったのは283件で、そこから案の出し手と専門家の作業会を経て102件の企画(Margareten 26件・Simmering 38件・Ottakring 38件)になり、陪審が選んだのはその中からである。住民が投票するのは、生の思いつきではなく施工できる形に直された案である。
第五に、年間の日程を先に公表すること。MeinBezirk(2023年1月10日)は、4〜5月に住民が案を出し、7月まで市の各部局が有効性と実現可能性を審査し、8〜10月に作業会で企画に練り上げ、11月に抽選で選ばれた住民の集まりが決め、12月から施工に入る、という順を書いている。
第六に、施工の期限を決めておくこと。同記事は、市が選ばれた企画を2年以内に実施するとしている。Ottakring の3件については、区長のプロコップ氏が計画を2023年中に、施工を2024年に行なうと述べている(同2023年3月2日)。
今どうなっているか
2026年8月時点で確認できた最も新しい記録は、2026年7月2日の MeinBezirk の記事である。
4巡目が2026年7月2日に市庁舎で締めくくられた。 Josefstadt と Penzing の2区で約850件の案が集まり、抽選で選ばれた陪審が15件を選んだ。Josefstadt では222件から8件が選ばれ、実施に約50万ユーロが充てられる。中心となるのは音楽学校 Skodagasse の前の街路の改造で、歩道の拡幅、大きく育つ木5本、座る場所の追加、日陰の確保が予定されている。Penzing では7件が選ばれ、約200万ユーロが充てられる。舗装に覆われた Feilplatz の脱舗装と植栽がその一つである。
関係者の受け止めも記事に載っている。 Josefstadt 区長のマルティン・ファビッシュ氏(緑の党)は、同区の緑地の割合が1.9%で最も低いと述べ、緑を増やす企画を挙げている。Penzing 区長のミヒャエラ・シュヒナー氏(SPÖ)は、区議会では思いつかなかった企画を陪審が選んだことに驚いたと述べ、企画が区内によく分散したことも挙げている。
対象の区は2022年の3区から広がっている。 試行の Margareten・Ottakring・Simmering に、2023年から Mariahilf・Währing・Floridsdorf が加わり、4巡目が Josefstadt と Penzing である。3巡目がどの区で行なわれたかは、参照した8本のどこにも書かれていない。
試行で選ばれた19件が実際に施工されたかどうかも、参照した8本には書かれていない。 Ottakring の3件については、2023年3月2日の記事が区長の見通し(2023年に計画・2024年に施工)を伝えたところで記録が途切れている。縮小や中止を伝える記述も、8本の中には無い。
評価は一つだけ残っている。 Urban Planning の論文(2023年3月16日)の抄録は、ウィーンの参加型予算の現行の形態について、過程の正統性を高める一方で、実施の実効性と弱い立場の人々の力づけには効きにくいかもしれないと論じている。本文は読んでいないので、抄録に書かれている範囲を超えて書かない。
出典
- Mehr Mitsprache in Wien: Wiener Klimateam auf Schiene — MeinBezirk(2022-01-16)
- Wiener Klimateam: Margareten, Simmering und Ottakring werden klimafit — MeinBezirk(2022-06-28)
- Wiener Klimateam: Ottakringer Klima-Ideen stehen vor der Umsetzung — MeinBezirk(2022-11-15)
- Wiener Klimateam: 19 klimafitte Projekte für Margareten, Ottakring und Simmering — MeinBezirk(2022-12-16)
- Umsetzung von Klima-Ideen: Drei neue Bezirke stoßen zum Wiener Klimateam dazu — MeinBezirk(2023-01-10)
- Drei Projekte: Diese Ottakringer Klima-Ideen werden bis 2024 umgesetzt — MeinBezirk(2023-03-02)
- Wiener Klimateam: 15 Projekte machen die Josefstadt und Penzing lebenswerter — MeinBezirk(2026-07-02)
- How Context Matters: Challenges of Localizing Participatory Budgeting for Climate Change Adaptation in Vienna — Urban Planning(2023-03-16)
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