経済破綻で職を失った人に空き地を貸し、農薬を使わない野菜を売る市まで用意した
Programa de Agricultura Urbana
1987年に NGO の共同菜園から始まり、2001年の経済破綻を受けて2002年に市の制度になった。2021年6月に WRI の大賞(25万ドル)を受け、2023年4月には河岸段丘の500平方メートルで若者向けの講座が始まっている。
何をしたか
アルゼンチン・ロサリオ市で、使われていない公有地・私有地を、職を失った人に一時的に貸して野菜を作らせ、それを売る市まで市が用意した取り組み。World Resources Institute(2021年6月21日)によれば、市の都市農業プログラム(Programa de Agricultura Urbana、略称 PAU)は2002年に、地域の団体へ道具・資材・種と、農薬を使わない栽培(agroecología)の研修を出すところから始まった。
始まりは経済の破綻である。 2001年に国の経済が崩れ、ロサリオでは労働力の4分の1が職を失い、人口の半分以上が貧困線を下回った。食料の値上がりと不足を前に、スーパーマーケットから食料を持ち出す住民も出た(同)。
制度は畑だけで終わらなかった。 市は常設と臨時の市(いち)を街なかに設け、耕す人が野菜や、漬物・ソース・シロップ・ジャム・化粧品といった手作りの品を売れるようにした(同)。
2021年6月、この制度は WRI Ross Center Prize for Cities 2020-2021 の大賞を受けた。 54か国262件からの選出で、賞金は25万ドルである(La tinta 2021年7月12日)。
誰が始めたか
制度の前に、NGO の菜園があった。 La tinta(2021年7月12日)によれば、最初の一歩は1987年で、NGO の CEPAR(Centro de Estudios de Producciones Agroecológicas de Rosario)が市内の集落に共同の菜園をつくった。近隣の住民が共通の場所で顔を合わせ、農薬を使わずに自分たちの食べる分を作るという考えだった。
技術の起点は農業技師アントニオ・ラトゥーカである。 同氏は La tinta に対し、これを外部の資材に頼らず誰でもできる技術であり、人の持っている知識を掬い上げるものだと考えたと述べている(同)。
耕す側の求めで方法が変わっている。 最初の2年で共同菜園がうまくいったため多点展開を考えたところ、耕す人たちから共同の一区画ではなく、区画に分けてほしいという求めが出た。 ラトゥーカ氏は「最初は共同で働くという私たちの考えが崩れることだったが、住民の言うことを受け入れた」と述べ、それが実際的な形になって市内の各所へ広がり、各人が自分の力を伸ばせるようになったと説明している(同)。
市の制度になったのは2000年代の初めである。 CEPAR の技術者が制度化のために市に近づき、同じ時期に市内で活動しようとしていた国の ProHuerta の技師たちと出会った(同)。Infobae(2022年11月16日)は、市の職員で農業技師のラウル・テリレ氏の言葉として、この制度がラトゥーカ氏ら研修担当者との構想から出発し、公共政策を立てられる地方政府・国の ProHuerta(INTA)・地元の NGO である CEPAR の連携になったことを伝えている。同氏は、強みは個々の人よりもその連携の側にあったと述べている。
いくらかかったか
事業費は、参照した6本のどこにも書かれていない。 unknown_fields に funding_scale を申告した。
分かるのは賞金だけである。 2021年6月の WRI Ross Center Prize for Cities 2020-2021 の大賞として25万ドルを受けた(La tinta 2021年7月12日)。同じ選考でアーメダバード(インド)、ロンドン(英国)、モンテレイ(メキシコ)、ナイロビ(ケニア)の各事業と並んだ。
規模の数字は出典間で食い違っている。 作付面積は、Rosario3(2021年6月30日)が市街地25ヘクタール+緑地帯50ヘクタール、World Resources Institute(2021年6月21日)が市内75ヘクタール、Infobae(2022年11月16日)が市街地30ヘクタール+緑地帯120ヘクタールと書いている。掲載日が9日しか離れていない2本でも数え方が違う。 discrepancies に並置した。参加する耕作者の数も250人超・300人近く・360人と分かれている。
生産と流通の量は近い。 Rosario3(2021年6月30日)は年およそ2,500トンの野菜を農薬を使わずに作り、7か所の常設の場で売っていると書き、World Resources Institute(2021年6月21日)も年およそ2,500トンとしている。Infobae(2022年11月16日)は市内39か所の市と八百屋で売られていると書いている。
真似するなら最低何が必要か
第一に、土地を売らずに貸すこと。World Resources Institute(2021年6月21日)によれば、耕す人はおよそ300人で、公有地・私有地を一時的に保有する形をとっている。所有を移さずに使わせる仕組みである。
第二に、共同の畑にこだわらないこと。1987年の共同菜園は2年でうまくいったが、耕す人たちの求めで区画制に変わった。ラトゥーカ氏は、それによって各人が自分の力を伸ばし、進んだ人が他の人を助け、各自が作る野菜を選び、別の日雇いの仕事と交互にこなすこともできるようになったと述べている(La tinta 2021年7月12日)。
第三に、売る場所を制度の側で用意すること。市は常設と臨時の市を街なかに設けた(World Resources Institute 2021年6月21日)。Infobae(2022年11月16日)は、仲買を通さずに消費者へ届くことを制度の特徴として挙げている。
第四に、作り方を1つに決めること。この制度は農薬を使わない栽培(agroecología)で統一されている。Infobae(2022年11月16日)は、その方法が土壌の管理に立ち、化学的な資材に依らず、経済・社会・環境の持続性を同じ重さで扱うものだと書いている。
第五に、街の外周を条例で押さえること。World Resources Institute(2021年6月21日)は、市が2015年に緑地帯の土地利用条例をつくり、周縁の800ヘクタールを農薬を使わない果樹・野菜の生産用に恒久的に定めたと書いている。同記事は、これが宅地開発と大豆栽培への転換から土地を守り、洪水の危険を下げ、気温を下げると書いている。開始年は出典間で分かれており、Infobae(2022年11月16日)は緑地帯(Cinturón Verde)を2016年に PAU を補う事業として始まったものとしている。 discrepancies に並置した。同記事によれば、この事業はテリレ氏が担当し、菜園(小さい面積)から農園(より大きい面積)へ規模を上げるものである。
第六に、輸送距離を数えること。World Resources Institute(2021年6月21日)は、単一作物の栽培が広がった結果、市は400キロメートル以上離れた場所から食料を調達するようになったとし、ロサリオ国立大学と RUAF の研究として、市内で野菜を作ると持ち込む場合より温室効果ガスの排出が95%少ないという数字を伝えている。市の直売所で二つの小さな食品事業を営む出店者は「500キロも600キロも運ばれてこない分、新鮮で手頃だ」という趣旨を述べている(同)。
今どうなっているか
2026年8月時点で確認できたのは、2026年7月17日の記事までである。
24年目も動いており、新しい取り組みが加わっている。 Fundación Rosa Luxemburgo(2026年7月17日)は、この制度の歴史を記録する本の企画として、パラナ川の河岸段丘にある古くからの非公式の集住地レプブリカ・デ・ラ・セスタ(República de la Sexta)の500平方メートルの土地で、2023年4月に若者向けの講座が始まったことを伝えている。土地は飲食店サンダーランドの厨房から56段の階段でつながっている。
きっかけは店主からの電話だった。 同記事によれば、2022年11月に店主クラウディオ・テデスキ氏がラトゥーカ氏に「ここの上でやってみないか」と持ちかけた。同記事は、ラトゥーカ氏がこのとき屋上のことだと思ったが、テデスキ氏が指していたのは厨房から56段離れた500平方メートルの土地だったと書いている。 同記事は、この制度そのものを1987年に始まった事業として書いている。なお同じページに載る連載の別記事の紹介文には、農薬を使わない最初の市が2002年9月に開かれ、以後も川岸で続いているとある。
研究の対象にもなっている。 Historia Regional に載った論文(構造化された掲載日は2024年12月19日)は、1960年代から1990年代にかけての食料主権をめぐる動きの中に PAU の成立を置いている。抄録の範囲では、著者らはこの経験を、より持続的な枠組みを固めようとする事例の代表として扱い、その歴史的な展開を調べるとしている(ロサリオ国立大学・CONICET のラウラ・シアルニエッロ氏とセシリア・イネス・ガリンベルティ氏)。本文は読んでいないので、抄録に書かれている範囲を超えて書かない。(この論文のページは掲載を10月27日と書き、収録号を2025年第1期としている。日付の表記が同じページの中で揃っていない。)
制度の広がり方は出典によって数え方が違う。 2021年6月時点で Rosario3 は7つの菜園公園(parques huerta)と6つの共同菜園、緑地帯に17の農場があるとし、World Resources Institute は7つの菜園公園と、2,400世帯・40校が研修を受けて自分の菜園を始めたとしている。縮小や撤退を伝える記述は、参照した6本の中には無い。
出典
- Rosario, Urban Farming Tackles Economic and Climate Crises — World Resources Institute(2021-06-21)
- Rosario recibió un premio internacional por sus políticas de producción sustentable de alimentos — Rosario3(2021-06-30)
- Rosario: el programa de Agricultura Urbana que salió «campeón del mundo» — La tinta(2021-07-12)
- El Programa de Agricultura Urbana de Rosario produce alimentos agroecológicos y da trabajo a 360 personas — Infobae(2022-11-16)
- Nuevas territorialidades en la lucha por la soberanía alimentaria: El surgimiento del Programa de Agricultura Urbana (PAU) en Rosario, Argentina (1960-1990) — Historia Regional(2024-12-19)
- La Agricultura Urbana de Rosario apuesta al futuro — Fundación Rosa Luxemburgo(2026-07-17)
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